金地金の相続税対策におけるリスク
「金地金を持てば相続税対策になる」——そう聞いて、購入を検討している方もいるかもしれません。
金地金は、相続開始時の時価を基準として評価されるため、不動産のような路線価方式や小規模宅地等の特例によって一律に評価額を大きく下げる仕組みはありません。
一方で、金は比較的換金しやすく、保有中に固定資産税がかからないなど、不動産とは異なる特徴があります。また、相続人が複数いる場合には、地金の分け方や納税資金の確保について注意が必要です。
この記事では、金を使った相続税対策の考え方や注意点、不動産との評価方法の違い、令和8年度税制改正による貸付用不動産の評価見直しについて解説します。
金は相続税評価額を下げる目的だけで購入する資産ではありません
金地金は、相続開始時の時価を基準として評価されます。財産評価基本通達では、一般動産について売買実例価額や精通者意見価格などを参酌して評価する考え方が定められており、金地金についてもこうした評価方法が基本となります。
実務上は、相続開始日の金地金の買取価格などを基準として評価する方法が一般的です。小売価格と買取価格は同じではないため、「死亡日の金の小売価格がそのまま相続税評価額になる」と考えるのは正確ではありません。
また、不動産には土地の路線価方式や倍率方式、小規模宅地等の特例など、一定の条件のもとで評価額が実際の取引価格より低くなる仕組みがあります。
そのため、相続税評価額を下げることだけを目的として金地金を購入しても、不動産と同じような評価圧縮効果を期待することはできません。
金の相続税対策が期待どおりになりにくい理由
「現物資産を持つと相続税対策になる」という説明を聞くことがあります。しかし、現物資産であればすべて同じように相続税評価額が下がるわけではありません。
金地金と不動産では、相続税評価の仕組みそのものが異なります。
金地金の相続税評価は相続開始時の時価が基準
金地金は、相続開始時点の時価を基準として評価します。
財産評価基本通達では、一般動産について、その動産の販売業者が所有するものなど一定の場合を除き、原則として売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価することとされています。
金地金については、実務上、相続開始日の買取価格などを基準として評価する方法が用いられています。
ここで注意したいのが、小売価格と買取価格の違いです。金地金には通常、販売価格と買取価格の差があるため、「金の小売価格=相続税評価額」と単純に考えることはできません。
不動産の路線価評価との違い
不動産についても、すべて同じ方法で相続税評価を行うわけではありません。
土地は、路線価地域では路線価方式、倍率地域では倍率方式によって評価します。建物については、原則として固定資産税評価額などを基に評価します。
路線価は、地価公示価格等を基に、おおむね80%程度を目途として定められています。そのため、土地によっては相続税評価額が実際の取引価格を下回ることがあります。
さらに、一定の要件を満たす宅地については、小規模宅地等の特例によって、対象となる部分の評価額が最大80%減額される場合があります。
ただし、この特例はすべての不動産に適用されるわけではなく、宅地の利用状況や相続人の要件、限度面積などの条件があります。
一方、金地金には、こうした路線価や小規模宅地等の特例に相当する一律の評価減制度はありません。
令和8年度税制改正で貸付用不動産の評価方法を見直し
令和8年度税制改正では、一定の貸付用不動産について、相続税評価の方法が見直されました。
改正の対象となるのは不動産全般ではなく、一定の貸付用不動産です。課税時期前5年以内に取得・新築した一定の貸付用不動産については、従来の路線価方式等による評価ではなく、通常の取引価額相当額を基準として評価する仕組みが設けられています。
この見直しは、相続開始前の短期間に貸付用不動産を取得して、相続税評価額と取得価額等との差を利用するようなケースを念頭に置いたものです。
この改正によって、対象となる貸付用不動産では従来の相続税評価方法が見直されますが、不動産全般の相続税評価が一律に変更されたわけではありません。
なお、この見直しは、原則として令和9年(2027年)1月1日以後に相続または遺贈により取得する財産から適用されます。
したがって、「不動産なら何でも相続税評価額を大きく下げられる」「5年間保有すれば問題ない」といった単純な理解は避ける必要があります。
相続税対策以外にも知っておきたい金地金のデメリット
金地金を相続財産として保有する場合は、相続税評価だけでなく、遺産分割や納税資金についても考えておく必要があります。
相続人の間で公平に分けるのが難しい場合がある
金地金は、1本あたりの重量が大きい商品があります。たとえば1kgの金地金は、金価格によって変動するものの、現在の相場では数千万円規模になる場合があります。
相続人が複数いる場合、その地金を物理的に分割して、それぞれが同じ重量を取得する方法だけが遺産分割ではありません。
たとえば、1人が金地金を取得し、その代わりに他の相続人へ預金などの財産を渡す方法や、金地金を売却して売却代金を分ける方法なども考えられます。
一方、地金そのものを重量に応じて複数人へ分けたい場合には、加工等が必要になる可能性があります。ただし、地金の小分け・分割を受け付けているかどうか、費用や納期は業者によって異なります。
相続税の納税資金を別途準備する必要がある
相続税は、原則として金銭で納付します。
そのため、相続財産の大部分を金地金で保有している場合、相続税の納税資金を預貯金など別の資産から用意するか、金地金を売却して現金化する必要が生じることがあります。
ただし、相続税には一定の要件を満たした場合に利用できる延納や物納の制度があります。したがって、「金地金は必ず売却しなければ相続税を納められない」というわけではありません。
また、相続税の申告・納税期限は、原則として相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。金地金を売却して納税資金を確保する場合には、売却手続きにかかる時間も考慮しておく必要があります。
「評価額を下げる」目的だけで金を買うのは本末転倒になりやすい
金地金には、不動産の路線価方式や小規模宅地等の特例のような評価圧縮の仕組みはありません。
そのため、相続税評価額を下げることだけを目的として金を購入しても、期待した節税効果を得られるとは限りません。
金を保有する場合は、相続税評価だけでなく、資産分散、換金性、保管方法、売買コスト、遺産分割のしやすさなどを総合的に検討することが重要です。
それでも金が相続対策で役立つ場面
金地金に評価圧縮効果がないことと、相続財産として保有する意味がないことは同じではありません。
金には、不動産とは異なる特徴があります。
比較的換金しやすい
金地金は、一定の条件を満たせば専門業者などで売却できます。不動産と比べると、買い手を探して売買契約を締結する必要がないため、一般に換金手続きを進めやすい資産です。
ただし、売却にかかる時間や入金方法は業者や取引条件によって異なります。また、本人確認や商品の確認が必要になる場合もあります。
相続税の納税資金を準備する目的で売却する場合には、申告・納税期限を考慮して余裕を持って手続きを進めることが重要です。
固定資産税がかからない
金地金には、不動産のような固定資産税はかかりません。また、空室リスクや建物の修繕費など、不動産特有の維持管理費もありません。
ただし、金地金にも保管場所の確保や貸金庫の利用料、保険料、購入時と売却時の価格差など、別のコストが発生する場合があります。
小口単位の商品なら遺産分割をしやすくできる
大きな地金を1本だけ保有する場合と、比較的小さな単位の商品を複数保有する場合では、相続時の分けやすさが異なります。
たとえば、同じ種類・重量の金貨を複数枚保有していれば、地金を切断・加工することなく、相続人ごとに取得する枚数を調整できます。
ただし、金貨には種類によって重量や品位、プレミアムなどの違いがあります。そのため、「枚数が同じなら必ず同じ価値」とは限りません。
相続でのトラブルを避けるための金の持ち方
金を相続財産として残す場合には、購入時点から「誰がどのように取得するのか」を考えておくことが重要です。
大きな地金は分割方法を事前に考える
1kgなどの大きな地金を複数の相続人で分ける場合、必ずしも地金そのものを切断する必要はありません。
たとえば、1人が地金を取得し、他の相続人には預貯金など別の財産を取得してもらう方法があります。また、相続人全員の合意のもとで売却し、売却代金を分ける方法もあります。
地金を共有する方法も考えられますが、共有状態にすると、売却や管理などの場面で共有者間の合意が必要になることがあり、将来的な手続きが複雑になる可能性があります。
小口単位の商品を複数保有する方法もある
地金を小さな単位に分けて保有したり、小口単位で発行される地金型金貨などを利用したりすれば、相続時に物理的な加工を行わずに分けられる可能性があります。
- 複数の相続人に分ける際の選択肢を増やせる
- 必要な分だけ売却しやすくなる
- 大きな地金を物理的に切断・加工する必要を減らせる
ただし、金貨についても購入価格と買取価格の差や、商品によってはプレミアムがあるため、購入時には売却条件まで確認しておくことが大切です。
また、相続税評価は「小口だから安く評価される」というものではありません。相続開始時の時価を基準として評価する点は変わりません。
まとめ
金地金は、相続開始時の時価を基準として評価されるため、不動産の路線価方式や小規模宅地等の特例のような評価圧縮の仕組みはありません。
そのため、「相続税評価額を下げる」という目的だけで金地金を購入することは慎重に検討する必要があります。
一方で、金には比較的換金しやすいことや、不動産のような固定資産税がかからないことなどの特徴があります。相続財産として保有する場合には、税務上の評価だけでなく、保管方法、売却コスト、納税資金、遺産分割のしやすさまで考えることが重要です。
また、令和8年度税制改正では、一定の貸付用不動産について相続税評価方法が見直され、令和9年(2027年)1月1日以後の相続等から適用されます。不動産を利用した相続対策についても、従来のイメージだけで判断せず、最新の制度を確認する必要があります。
金地金を複数の相続人に分けることを想定する場合は、小口単位の商品を組み合わせる方法も選択肢になります。ただし、金貨などについても商品ごとの価格差や売買コストがあるため、購入前に確認しておきましょう。
