金地金の相続における相続トラブルのリスク
金の現物投資を検討している方、あるいはすでに金地金(インゴット)を保有している方の中には、「相続の場面で家族が揉めないか」という不安を抱く方もいるでしょう。大型の金地金は、現物をそのまま複数の相続人に分けにくいという特徴があるため、相続人が複数いる場合には、承継方法について事前に検討しておくことが重要です。
本記事では、金地金の相続で揉めることがある理由、実際に起こり得る4つのトラブル、揉めないために事前にできる対策を整理します。あわせて、相続や分割のしやすさという観点から比較されることがある金貨についても紹介します。
金地金の相続で揉めることがあるのはなぜ?
インゴットは「そのままでは分けにくい」現物資産だから
金地金(インゴット)は、100g、500g、1kgなどさまざまな重量の商品があります。特に大型のインゴットは1本単位で保有されるため、相続人が複数いる場合、そのままの形で公平に分けることが難しい場合があります。
たとえば、相続人が3人いて、1kgのインゴット1本を遺産として残した場合を考えます。インゴットを1人が取得し、他の相続人には預貯金など別の財産を取得してもらう方法や、インゴットを取得した相続人が他の相続人に代償金を支払う「代償分割」などが考えられます。
ただし、どの方法を選ぶかは、金地金以外の遺産の内容や各相続人の希望などによって異なります。金地金を誰が取得するのか、取得しない相続人との間でどのように調整するのかを事前に考えておくことが、トラブルの防止につながります。
なお、相続税の計算における財産評価と、相続人同士で遺産をどのように分けるかは別の問題です。相続税の計算では原則として相続開始時の財産価額を基準としますが、遺産分割において代償金をいくらにするかについては、相続人間での合意などを踏まえて決める必要があります。
「金を持っていること」を家族が知らないケースも
金地金の相続では、そもそも「金を保有していること自体を家族が知らない」という問題も起こり得ます。
自宅の金庫や貸金庫などに保管されている場合、購入記録や保管場所を本人しか把握していないことがあります。この場合、相続人が金地金の存在を把握できないまま財産調査を進め、後から金地金が見つかると、遺産の把握や分割協議をやり直す必要が生じる可能性があります。
金地金を保有している方は、メーカー、重量、購入時期、購入価格、購入先、保管場所などを整理し、相続手続を担う人が確認できるよう適切に記録しておくことが重要です。ただし、防犯上の観点から、保管場所の情報は必要な人が安全に確認できる方法で管理することも大切です。
相続税の評価額をどう考える?
金地金も原則として相続財産に含まれ、相続税の課税価格の計算対象となります。ただし、相続税は遺産総額が基礎控除額を超える場合などに課税されるものであり、金地金を保有していることだけで必ず相続税が発生するわけではありません。
金地金の相続税評価については、財産評価基本通達上、一般動産として売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価する考え方が示されています。実務上は、相続開始日(被相続人が亡くなった日)の金地金の買取価格などを基に評価する方法が一般的です。
そのため、「現物資産だから相続税対策になる」と単純に考えることはできません。金地金は土地のように路線価方式を利用して評価する資産ではないため、評価方法によって大幅な評価額の圧縮を期待する資産とは性質が異なります。
なお、相続税の申告・納税期限は、原則として相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。遺産分割がまとまっていない場合でも、申告期限そのものが自動的に延長されるわけではありません。相続税の評価方法や具体的な計算については、個別の事情によって異なるため、税理士などの専門家に確認することをおすすめします。
「金を持っていれば相続税が安くなる」と考えるのではなく、相続時の評価方法だけでなく、財産の把握や遺産分割、承継方法まで含めて検討することが重要です。
金地金の相続で起こりやすい4つのトラブル
①「誰がインゴットをもらうか」で揉める
1本のインゴットを複数の相続人の共有状態にする方法もあります。ただし、インゴット全体を売却・処分する場合には、共有者全員の同意が必要となるため、共有状態を長期間残すことが新たなトラブルにつながる可能性があります。
一方で、各共有者が自分の共有持分を処分する場合まで、共有者全員の同意が必要という意味ではありません。共有状態を選択する場合は、将来の売却や管理まで考えておく必要があります。
また、現物であるインゴットを取得する相続人と、預貯金など別の財産を取得する相続人との間では、遺産全体の価値や取得内容について不公平感が生じる可能性があります。
② 金価格の変動によって評価額と売却額が異なる
金地金については、相続税の計算に用いる評価額と、相続人が実際に売却するときの価格が異なることがあります。
相続税の計算では、原則として相続開始時の財産価額を基準として評価します。一方、相続人が金地金を売却する場合には、実際に売却する時点の金価格や買取条件が適用されます。
そのため、「相続時には高い価格で評価されていたが、売却時には価格が下がっていた」といったことも起こり得ます。反対に、売却時の金価格が上昇している場合もあります。
また、相続税の評価額と、遺産分割において相続人間でどのような金額を基準に調整するかは別の問題です。代償分割などを行う場合は、金地金以外の財産も含め、相続人間で納得できる分割方法を検討する必要があります。
③ 売却して現金化する際にも注意が必要
相続した金地金を売却して現金化する場合、相続税とは別に、売却によって生じる所得について税金が発生する可能性があります。
国税庁によると、個人が金地金を売却した場合の所得は、原則として譲渡所得として扱われます。所有期間が5年以内か、5年を超えるかによって、譲渡所得の計算方法が異なります。
ただし、相続によって取得した金地金については、相続人が取得した日から単純に所有期間を数えるわけではありません。原則として、被相続人の取得時期を引き継いで所有期間を判定します。
譲渡所得の計算では、売却価額から取得費や譲渡費用などを差し引きます。取得費を確認するためにも、被相続人が金地金を購入した際の領収書、取引明細、購入証明書などを保管しておくことが重要です。
取得費が確認できない場合には、税務上の計算について個別の確認が必要になります。土地・建物の譲渡所得で用いられる「概算取得費5%」の取扱いを、金地金にそのまま適用できると考えないよう注意してください。
また、譲渡所得には特別控除があるため、金地金を売却して利益が出た場合でも、状況に応じて必ず所得税の確定申告・納税が必要になるとは限りません。実際に申告が必要かどうかは、売却益の金額や所有期間、他の所得などを含めて判断する必要があります。
相続税と、相続後に金地金を売却した場合の譲渡所得に対する所得税は、別の課税関係です。相続後に売却する予定がある場合は、相続税だけでなく売却時の税務についても確認しておくとよいでしょう。
④ 保管場所や購入履歴が分からなくなる
被相続人が金地金を自宅で保管していたのか、貸金庫などに預けていたのかを家族が把握していない場合、遺産分割の前提となる財産の把握そのものに時間がかかります。
また、購入時の書類を紛失していると、取得費や購入時期などの確認が難しくなる可能性があります。メーカー名、重量、刻印・番号(ある場合)、購入時期、購入先などを整理しておけば、相続人が金地金の内容を確認する際に役立ちます。
なお、購入書類は取得費や購入履歴の確認に役立つものであり、それだけで現物の真贋を証明するものではありません。真贋について確認が必要な場合は、専門業者などへの相談も検討する必要があります。
金地金の相続で揉めないためにできること
保有している金地金を一覧化する
金地金を保有している場合は、以下の情報を整理し、相続手続を担う人が確認できるよう適切に保管しておくことをおすすめします。
- メーカー
- 重量
- 購入時期
- 購入価格
- 刻印・番号(ある場合)
- 保管場所
- 購入先
この情報が整理されていれば、相続が発生した際に相続人が財産の全体像を把握しやすくなり、財産調査や取得費の確認にかかる手間を減らすことにつながります。
誰に承継するかを事前に決める
金地金を「誰に」「どのように」承継させるかを、生前のうちに検討しておくことも有効です。遺言書の中で金地金の承継先を具体的に指定しておけば、相続開始後に「誰が取得するか」を巡る争いを抑えられる可能性があります。
ただし、遺言を作成すれば必ず相続人間のトラブルを防げるわけではありません。遺言の方式や内容にも注意が必要であり、特定の相続人に金地金を取得させる場合には、他の財産も含めた遺産全体や遺留分についても検討する必要があります。
金地金だけを切り離して考えるのではなく、預貯金や不動産など他の財産も含めた遺産分割の方針を全体として検討することが重要です。金地金だけに偏った承継方針は、他の財産の分け方との整合性が取れず、かえって相続人間の不公平感につながる可能性があります。
相続人が複数いるなら「小口化」も検討する
相続人が複数いる場合は、1本の大型インゴットに資産を集中させるのではなく、複数の小口資産として保有する方法も選択肢になります。
大型のインゴット1本を1人の相続人に取得させる方法は、現物そのものの承継という点ではシンプルですが、他の相続人との間で代償金や他の財産による調整が必要になる場合があります。
これに対し、複数の小口資産として保有していれば、相続人ごとに異なる組み合わせで取得するなど、分割方法の選択肢を広げやすくなります。
「相続しやすさ」という観点でインゴットと金貨を比較した場合、インゴットが重量ごとの1本単位で保有されるのに対し、金貨は1枚単位で保有できるため、複数枚を組み合わせて分ける選択肢を取りやすいという違いがあります。
ただし、金貨であれば必ず公平に分割できるわけではありません。金貨には重量や品位だけでなく、販売価格と買取価格の差、プレミアム、商品ごとの流通性などもあるため、購入・保有する商品を選ぶ際には、相続時だけでなく売却時の条件も確認することが重要です。
まとめ|金地金は「購入時」だけでなく「相続時」まで考えて選ぶ
金地金そのものが「必ず揉める資産」というわけではありません。しかし、大型のインゴットは現物のまま複数の相続人に分けにくいという特徴があり、誰が取得するのか、他の相続人との間でどのように調整するのかを事前に検討しておくことが重要です。
また、保管場所や購入記録が家族に伝わっていないと、相続財産の把握に時間がかかる可能性があります。メーカー、重量、購入時期、購入価格、保管場所などを整理しておくことも、相続時の負担軽減につながります。
相続を見据えて金の現物投資を考えるのであれば、購入時の価格や手数料だけでなく、保有単位や承継方法、売却時の税務まで含めて検討することが重要です。
小口で保有できる金貨も、その選択肢のひとつです。ただし、金貨には商品ごとの価格差やプレミアム、流通性、売却条件などの違いがあります。金貨を選ぶ際は、真贋・品質・流通性・売却条件などを事前に確認したうえで判断してください。
インゴットの保管や相続時の分割に不安がある方は、インゴットとは異なる選択肢として、小口で保有できる金貨についても比較検討してみるとよいでしょう。
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